会陰ヘルニアは、比較的高齢の未去勢の雄犬に多く認められる疾患で、肛門から臀部にかけての筋肉群が薄くあるいは細くなり脆弱化が起こることで筋肉が裂けたり筋肉と筋肉の間に隙間ができ、そこから膀胱や前立腺、消化管、脂肪などの腹腔内の臓器が骨盤腔を通して皮下に飛び出してきてしまう疾患です。未去勢の雄犬に多いことからホルモンバランスの乱れに起因することが示唆されていますが、その他遺伝的要因、腹圧が上がる病態(慢性下痢、巨大結腸症、慢性的な発咳、排尿障害や便秘などによるしぶり等)による要因、筋肉が脆弱化する病態(副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症など)による要因も言われています。
会陰ヘルニアになるとヘルニア孔より出てくる臓器によって弊害が出るようになります。膀胱や前立腺が出ることにより排尿障害が生じたり、直腸憩室が形成されることによる排便障害が生じることがあり、重度な症例では排尿障害より尿毒症を続発し手遅れになる場合もあるため手術が推奨されます。
会陰ヘルニアの手術にはさまざまな方法が考案され実施されています。大きく分けてヘルニア孔周辺の筋肉縫縮、筋肉転移術、総鞘膜転移術(総鞘膜とは精巣を包んでいる膜です)など自己の生体内組織を利用した整復方法と、シリコン製の会陰プレートやポリプロピレンメッシュなどの人工材料を用いて孔を補填する整復方法とがあります。しかし、どの方法を選択しても30~60%程度の再発が生じるといわれています。筋肉の脆弱化は進行性の場合も多いため、再発率を低下させる意味でも手術は出来るだけ早い段階で行うことが望まれます。未去勢の雄犬の罹患が多いので、当院では総鞘膜転移術を好んで行っています。
先日当院で手術を行ったヨークシャーテリアは、会陰ヘルニアでは珍しくメスの子でした。両側性の会陰ヘルニアでしたが、術前の検査の結果、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)であることがわかりました。副腎皮質機能亢進症では身体の中のグルココルチコイドが過剰な状態ですが、この影響により術創の治りが遅くなったり感染しやすいという特徴を持っています。人工材料を用いたヘルニア孔の閉鎖術は簡便であり、比較的大きなヘルニア孔にも対応できるという利点がある一方で、生体にとっては異物であるため炎症反応や感染を起こしやすいという欠点も持ち合わせています(もちろんすべての症例で必ず炎症や感染が起きるというわけではありません)。そこで、今回は内閉鎖筋フラップ術という方法で整復しました。内閉鎖筋という骨盤に付着する筋肉を剥離反転し、外肛門括約筋、尾骨筋、肛門挙筋、浅臀筋、仙結節靱帯とともに縫合してヘルニア孔を閉鎖する方法です。
矢印の部位が腫れているのが分かります。この子の場合膀胱が出てきていました。
肛門の脇を切開後膀胱を腹腔内に戻すと大きなヘルニア孔が確認されました。
骨盤より内閉鎖筋を剥離し縫着しているところです。
両側整復を行いました。
術後の経過は良好で無事抜糸も終わり現在のところ再発もしておりません。
この子の場合副腎皮質機能亢進症が筋肉を脆弱化させそれによりヘルニアが発症したと考えられるため、これに対する内服の治療は継続していく必要があります。会陰ヘルニアはなるべく早く手術することにより再発率を低く抑えることが可能であると考えられています。未去勢の雄犬で肛門の脇に膨らみを感じたらお早目に動物病院にご相談ください。
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