病院長はVeterinary Emergency and Critical Care Society(獣医救命救急医療学会)とAmerican College of Veterinary Emergency and Critical Care(アメリカ獣医救命救急医療専門学会)の共同プロジェクトであるRECOVER(獣医蘇生再評価運動)の実技講習を修了し、American College of Veterinary Emergency and Critical Care の認定証を取得しました。また、水越麻希子副院長、中塚千枝勤務獣医師もWEB講習を受講し修了証を取得しました。
ガイドラインに沿った心肺蘇生の方法を見直し徹底することで、心肺停止に陥った犬や猫の救命率を少しでも上昇させたいと思います。心肺蘇生は医療スタッフチームによる日々のトレーニングと各個人の日々の意識が重要になります。スタッフ一同、懸命に取り組んでいきたいと思います。
会陰ヘルニアは、比較的高齢の未去勢の雄犬に多く認められる疾患で、肛門から臀部にかけての筋肉群が薄くあるいは細くなり脆弱化が起こることで筋肉が裂けたり筋肉と筋肉の間に隙間ができ、そこから膀胱や前立腺、消化管、脂肪などの腹腔内の臓器が骨盤腔を通して皮下に飛び出してきてしまう疾患です。未去勢の雄犬に多いことからホルモンバランスの乱れに起因することが示唆されていますが、その他遺伝的要因、腹圧が上がる病態(慢性下痢、巨大結腸症、慢性的な発咳、排尿障害や便秘などによるしぶり等)による要因、筋肉が脆弱化する病態(副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症など)による要因も言われています。
会陰ヘルニアになるとヘルニア孔より出てくる臓器によって弊害が出るようになります。膀胱や前立腺が出ることにより排尿障害が生じたり、直腸憩室が形成されることによる排便障害が生じることがあり、重度な症例では排尿障害より尿毒症を続発し手遅れになる場合もあるため手術が推奨されます。
会陰ヘルニアの手術にはさまざまな方法が考案され実施されています。大きく分けてヘルニア孔周辺の筋肉縫縮、筋肉転移術、総鞘膜転移術(総鞘膜とは精巣を包んでいる膜です)など自己の生体内組織を利用した整復方法と、シリコン製の会陰プレートやポリプロピレンメッシュなどの人工材料を用いて孔を補填する整復方法とがあります。しかし、どの方法を選択しても30~60%程度の再発が生じるといわれています。筋肉の脆弱化は進行性の場合も多いため、再発率を低下させる意味でも手術は出来るだけ早い段階で行うことが望まれます。未去勢の雄犬の罹患が多いので、当院では総鞘膜転移術を好んで行っています。
先日当院で手術を行ったヨークシャーテリアは、会陰ヘルニアでは珍しくメスの子でした。両側性の会陰ヘルニアでしたが、術前の検査の結果、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)であることがわかりました。副腎皮質機能亢進症では身体の中のグルココルチコイドが過剰な状態ですが、この影響により術創の治りが遅くなったり感染しやすいという特徴を持っています。人工材料を用いたヘルニア孔の閉鎖術は簡便であり、比較的大きなヘルニア孔にも対応できるという利点がある一方で、生体にとっては異物であるため炎症反応や感染を起こしやすいという欠点も持ち合わせています(もちろんすべての症例で必ず炎症や感染が起きるというわけではありません)。そこで、今回は内閉鎖筋フラップ術という方法で整復しました。内閉鎖筋という骨盤に付着する筋肉を剥離反転し、外肛門括約筋、尾骨筋、肛門挙筋、浅臀筋、仙結節靱帯とともに縫合してヘルニア孔を閉鎖する方法です。
矢印の部位が腫れているのが分かります。この子の場合膀胱が出てきていました。
肛門の脇を切開後膀胱を腹腔内に戻すと大きなヘルニア孔が確認されました。
骨盤より内閉鎖筋を剥離し縫着しているところです。
両側整復を行いました。
術後の経過は良好で無事抜糸も終わり現在のところ再発もしておりません。
この子の場合副腎皮質機能亢進症が筋肉を脆弱化させそれによりヘルニアが発症したと考えられるため、これに対する内服の治療は継続していく必要があります。会陰ヘルニアはなるべく早く手術することにより再発率を低く抑えることが可能であると考えられています。未去勢の雄犬で肛門の脇に膨らみを感じたらお早目に動物病院にご相談ください。
先日本院においては2例目となる動脈管開存症の手術を行いました。
患者さんは練馬区在住の3ヵ月齢のオスのトイプードルで体重は2kgでした。
近医にて心雑音を指摘され手術のために当院をご来院されました。
心雑音は動脈管開存症では特徴的な連続性の雑音でした。
連続性の雑音とは「トンネルの中を新幹線が走っているような音」と表現されたりします。
心臓超音波検査では肺動脈内に肺動脈弁に向かう流速5m/秒程度の短絡血流が認められました。
手術では前回の症例に比べ体重が2kgとやや大きく術野も多少大きくとれました。
動脈管の太さは前回の症例より太く直径で1cmほどありました。
手術の手順は前回と同様2本の糸と1本のテープ糸を動脈管に通して結紮しました。
動脈管の手術中は股動脈より観血的に動脈圧をモニターしておりますが、
動脈管を結紮すると大動脈から肺動脈に短絡していた血流分の血圧上昇が認められます。
この子は85mmHgから97mmHgまで血圧が上昇しました。
手術は無事成功し心雑音は消失しておりました。
術後2日目に元気に退院していきました。
術後1週間で抜糸にいらっしゃいましたがお家では元気にしているとのことでした。
院長
こんにちは。
先日の休診中は皆様に大変ご迷惑をお掛け致しまして申し訳ありませんでした。
皆様のご協力に感謝いたしております。
今回のロンドンでの心臓外科手術に関するご報告をしようと思います。
イギリスのロンドン郊外にあるRoyal Veterinary College(RVC)付属の
Queen Mother Hospital for Animalsで僧帽弁閉鎖不全症の弁形成手術を行いました。
大学は緑豊かな広大な敷地にあり、校舎も新しくとてもきれいでした。
敷地内には馬や羊、牛などが放し飼いにされており、とても開放的な感じでした。
また、野ウサギがとてもたくさん敷地内を走り回っていました。
病院も広く、清掃がいきわたっており清潔感のある病院でした。
執刀医である上地教授と病院の前で撮りました。
貴重な勉強や体験をさせていただいている教授にはいつも感謝しております。
今回の症例は僧帽弁閉鎖不全症を患う11歳のジャックラッセルテリアでした。
肺水腫を繰り返し、左心房の拡大も著しい予想以上に重度な僧帽弁閉鎖不全症でした。
手術中の風景です。
弁形成術は人工心肺装置を用いて心臓を一時的にとめて行います。
心臓の処置が終了したのちに再び心鼓動を再開させるのですが、
いつもこの瞬間がドキドキします。
人工心肺に用いるローラーポンプの写真です。
幸い手術は無事に成功しました。
術後管理はRVCの集中治療チームにお願いしました。
その後も順調に回復し、術後1週間で元気に退院したとのことです。
今回頑張ってくれた手術直後のハイジちゃんです。
協力していただいたRVCの手術スタッフと私たちのチームで撮りました。
上地教授が率いる私たちの心臓外科チームは、
過去に2度アメリカ(ミシガン、ジョージア)にて手術を行いました。
今回のイギリスは3度目の海外出張手術でしたがたくさんのことを学んできました。
また、世界の獣医師と話をすることでとても刺激を受けて帰ってきました。
この経験を皆様に還元できるように日々勉強、日々努力をして頑張りたいと思います。
今後もシンガポールでの手術を予定しております。
皆様にはご迷惑をお掛けすることもあると思いますが、
今後とも何卒ご協力の程よろしくお願いいたします。
池上アクア動物病院 院長 水越 崇博
こんにちは。
池上アクア動物病院、院長の水越です。
獣医循環器学会の認定する獣医循環器認定医になり1年が経ちました。
おかげさまで大田区を中心に、世田谷区、目黒区、中央区、品川区、江戸川区、板橋区、川崎市、茨城県など
東京都内外より循環器診療に関するセカンドオピニオンのお問い合わせを数多くいただけるようになってきました。
お電話にてご相談をお受けしたり、実際に来院してくださり診察させていただくなかで、
あらためて心臓疾患に苦しんでいる犬や猫がたくさんおり、
また「心雑音があります」、「心臓病です」と言われて大きなご不安を抱え
お悩みしている飼い主様が数多くいらっしゃることが再認識させられます。
一方で、検査の結果実際には心臓に問題がなく大変安心されてお帰りになっていく方もいらっしゃいっます。
不安とは正体のわからない(自分の容量を超えた)事柄に対して先が見えず問題解決の糸口が見つからないという
その事柄に対する情報が圧倒的に少ない状態でその状況を思考した際に感じる心の動きです。
ですから不安を少しでも軽減させる唯一の方法は病気に対する正しい知識を持つことです。
そうすることで現在の状況や予後を把握できるようになりそのうえで治療法を判断・選択できるようになるのです。
私たちはその正しい知識や現在の状況を把握する手助けをさせて頂いています。
簡単な言葉でなるべく分かりやすく説明するように心がけておりますが、
少しでも分からないことがあれば是非とも質問してご理解を深めてください。
些細なことでも気後れせずお気軽にご相談していただければ幸いです。
現在、犬の僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁逆流症、慢性弁膜症)や不整脈、先天性心疾患、猫の肥大型心筋症など
飼い主様とご相談しながら治療法を決定し内科療法を中心に治療を行っております。
また、心疾患の治療法の選択肢の一つのとして心臓外科手術も提案させて頂いております。
私は先天性心疾患や僧帽弁閉鎖不全症などの心臓外科手術を行う動物循環器病研究会チームの一員でもあり、
日本大学における心疾患の根治術である心臓外科手術のご相談も随時お受けしております。
術前、大学における手術、術後と一貫して大切なペットのケアをさせて頂きます。
心臓の手術に関してもお気軽にお問い合わせください。
皆様のお力になれるよう今後も勉強を続けて参りたいと思います。
(当院における動脈管開存症の手術風景)
先日、3カ月齢のマルチーズ(体重1kg)の動脈管開存症の開胸外科手術を行いました。
手術後は順調に回復し、心雑音もすっかりなくなり元気に退院していきました。
今回はその動脈管開存症についてご紹介しようと思います。
動脈管開存症は犬の先天性心疾患の中では最も一般的な心臓病であると言われていますが、
近年では非常に少なくなってきており動脈管開存症の犬に遭遇する機会も少なくなってきているように思われます。
好発犬種としては、マルチーズ、ポメラニアン、ミニチュアダックスフンド、トイプードル、ヨークシャーテリアなどがあげられます。
では動脈管開存症とはどういう病態なのでしょうか。
仔犬がまだお腹の中にいる胎児の時には呼吸による酸素と二酸化炭素のガス交換を行っていないため、
肺に血液を送る必要があまりありません。
そこで胎生期の仔犬には大動脈と肺動脈をつなぐバイパス血管あり、
心臓から肺動脈に送られた血液はこのバイパス血管を通じて大動脈に流れ込み、
肺を介さずに全身に多くの血液を送ることができるようになります。
このバイパス血管が動脈管です。
出生後には呼吸をして肺でガス交換を行うようになるため、
必要無くなった動脈管は生後3日の内に退縮して閉鎖します。
しかし、血中プロスタグランジンの量や酸素などの影響により、
これが閉鎖せずに残ってしまったものが動脈管開存症という病気です。
<正常な構造>
<動脈管開存症の構造>
動脈管が残存していると、
左心室から大動脈に送られた血液の一部が血圧の低い肺動脈に流れ込むことで肺の血流が増加し、
結果として肺から左心房に帰ってくる血液量が増加するため
左心房や左心室に多くの負担がかかってしまいます。
そのため左心不全を起こしてしまいます。
また、過剰な血液が流れ込む肺の血圧は高くなるために血管は動脈硬化を起こし、
肺のうっ血、さらには右心系のうっ血を呈するようになり最終的には右心不全を起こすようになります。
<動脈管開存症の血液の流れ>
動脈管開存症の症状は、初期ではほとんど症状を示さず元気なことが多いです。
そのために発見が遅れることがあります。
しかし、成長とともに発咳や運動を嫌がる、疲れやすいなどの症状がみられるようになり、
1歳を過ぎるとうっ血性心不全や肺水腫、腹水などを呈するようになります。
残存する動脈管の太さにもよりますが、多くの場合3歳までに亡くなってしまいます。
それでは実際の症例で外科的治療に関してご紹介しようと思います。
今回の患者さんは2カ月齢のマルチーズの女の子です。
ワクチン接種時に心雑音を指摘され本院に来院されました。
本人に症状はなく元気いっぱいでした。
しかし、聴診を行うと大きな雑音が聴取されました。
動脈管開存症に特徴的な心雑音が聴取されましたので心臓検査を実施しました。
検査には、胸部レントゲン検査、心電図検査、心臓超音波検査、血液検査を実施しました。
心臓超音波検査では肺動脈内に流れ込む異常な血流をカラーで描出することができます。
以上の検査をもとに動脈管開存症と診断し、手術を行いました。
手術時には3カ月齢の1.2kgになっていました。
動脈管間存症の手術は、開胸して動脈管を結紮することで行います。
開胸といっても術野の大きさは人差し指と親指で丸を作った程度の大きさしかなく、
その中でそれぞれの太さが6mm程度しかない大動脈、肺動脈、動脈管を慎重に分離し、
非常に破れやすい組織の動脈管を破れないようにゆっくり3本の糸で縛っていく必要があるため、
手術の難易度は非常に高くなります。
<動脈管に3本の糸を通したところ>
<動脈管を結紮したところ>
術後は順調に回復し、
その日のうちに少量のご飯を食べれるまでになりました。
聴診上心雑音は消失し、超音波検査上も異常血流はなくなっていました。
術後2日目に元気に退院していきました。
動脈管開存症は早期から大きく特徴的な心雑音が聴取できることから、
新たに仔犬を買い始めたらまず動物病院で身体検査を受診することをお勧めします。
そして、動脈管開存症と診断されたらできるだけ早期に手術を行うことが必要です。
そうすることでその後の一生涯を普通のワンちゃんと同じように生活することができるようになります。
当院では循環器疾患の診療に特に力を入れております。
また、現在でも大学に籍を置き先天性心疾患および僧帽弁閉鎖不全症の体外循環を用いた外科的根治術の
手術チームの一員としても活動しております。
先天性、および後天性の心疾患、高齢の小型犬に多いとされる僧帽弁閉鎖不全症、猫の心筋症など
心臓病でお悩みの方、お気軽にご相談ください。
池上アクア動物病院
院長 水越崇博
今日はいいお天気ですね。
夏は、色々なイベントがありますね、花火大会、盆踊り、海水浴、キャンプ等々・・
どれも大切なペットと共に過ごせる楽しいイベントですが、時には不安になったり、怖がらせてしまう事も(>_<)
この時期の雷や台風、花火などはワンちゃん、猫ちゃんたちにとっては大きな音がするため
ストレスをためてしまう事があります。
また、不特定多数の人に出会う盆踊りや海水浴等も同様のことが言えます。
こんな様子に気づいたことはありませんか?
・雷や風雨の音がすると震えたり、ハァハァしてしまう。
・慣れていない場所に行くと急に全身にフケが出てしまう。
・足やパッドをひたすら舐めている。
・車に乗るとよだれが出たり、落ち着きがなくなる。
・外出先では抱っこをせがむ事が多くなる。
これらは、ほんの一部ですがペットたちの出しているヘルプのサインです。
症状がひどいと何とか不安なことから逃れようとして攻撃行動などに発展する事があります。
もし皆様の大切なパートナーにそのような様子が見られる場合は
少しでも不安を取り除くお手伝いができたらと思いますのでお気軽にご相談ください♪
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