胆嚢粘液嚢腫による胆嚢摘出術

こんにちは。

今回は胆嚢粘液嚢腫および胆嚢摘出術による外科治療に関してご説明します。

<胆嚢と胆汁>
肝臓で作られた胆汁は肝臓内の細い胆管と呼ばれる管で集められた後、肝管と呼ばれる管を通って胆嚢に集められ貯蔵されます。胆嚢に貯蔵された胆汁は胆嚢から十二指腸に続く胆嚢管・総胆管を通って十二指腸内に分泌され食餌中の脂質の分解・吸収に役立てられています。胆嚢内で胆汁は20~30倍に濃縮されます。

正常な胆嚢の超音波所見。楕円形の黒い部分が胆嚢。胆嚢内の胆汁は真っ黒に映ります。
胆嚢.jpg

胆泥が溜まった胆嚢の超音波所見。胆嚢内右側にグレーの堆積物が確認されます。
胆嚢4.jpg

<胆嚢粘液嚢腫>
加齢とともにみられる胆嚢の運動性低下や高コレステロール血症、副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能低下症などの内分泌疾患の結果胆汁の過剰濃縮が起き、胆石や胆泥が形成されるようになります。これらの刺激により胆嚢内における粘液生成が過剰になります。胆嚢粘液嚢腫とは胆嚢内にこの粘液が増加し、ゼリー状に変化することで胆汁うっ滞が起き胆嚢が拡張している病態を指します。胆嚢粘液嚢腫の状態が長く続くと拡張した胆嚢壁の血流が不十分となることで胆嚢壁が壊死し避けることで胆嚢内容物が腹腔内に流出するようになります胆嚢破裂)。すると胆汁性腹膜炎を生じてきます。また、胆泥やゼリー状物質などにより総胆管が閉塞すると胆汁うっ滞性の黄疸を示すようになります。

当院で確認された3頭の胆嚢粘液嚢腫の超音波画像です。どの症例も見たような所見になっています。
胆嚢1.jpg胆嚢2.jpg胆嚢3.jpg

<症状>
元気消失、食欲不振、腹部疼痛、嘔吐、発熱、黄疸など。

<好発犬種>
高脂血症を起こしやすい犬種。シェルティー、シュナウザー、シーズー、コッカースパニエル、ビーグルなどの中高齢犬。

<治療>
胆嚢が壊死・破裂を起こし胆汁性腹膜炎を呈している場合には外科手術による胆嚢摘出術が選択されます。
胆汁流出がなく症状がない場合、あるいは初めての症状で支持療法による改善がみられる場合には内科療法が行われます。利胆剤、抗生剤の投薬と低脂肪食が推奨されています。また基礎疾患として内分泌疾患を罹患している場合にはこれらについても治療していくのが良いでしょう。しかし結果的に胆管閉塞や胆嚢破裂を起こすことも多いため早期の胆嚢摘出術を推奨する獣医師も多いです。高齢に加え胆嚢破裂による重度腹膜炎等により全身状態が悪いことが多くDICや多臓器不全に陥りやすいため、胆嚢摘出術後の生存率は60~80%と言われており、術中、術後に亡くなることも非常に多い疾患です。

当院で実施した胆嚢摘出症例です。胆嚢破裂によりゼリー化した胆泥が腹腔内に散在(腹腔内下方にある黒いつぶつぶ)しています。
1452586315758 - コピー.jpg

拡張した胆嚢(上の薄黒)と腹腔全体に拡がる強い腹膜炎(炎症により全体的に赤)の所見が確認できます。
1452586312148 - コピー.jpg

胆嚢周囲にはさらに多くのゼリー状物が確認できます。
1452586308651 - コピー.jpg

摘出した胆嚢です。幸い本症例は回復し現在も元気に過ごしています。
1452586304453 - コピー.jpg

<予防>
7歳を越えるシニア期に入ってきたら定期的な健康診断を実施し、血液検査、腹部超音波検査により胆泥症の段階で早めにケアしていくことが重要となります。また、肥満予防など食事管理も非常に大切です。

池上アクア動物病院
病院長

医療のお話|水越 崇博|2016年02月05日

スマホ表示へ切り替え

ページ上部へ戻る